植物の未来
調査の依頼を受けて、私がはじめて研究対象としてのサクラソウと対面したのは、1994年の3月でした。
陽光は明るいけれどもまだ空気の冷たいその季節・・・
埼玉県の特別天然記念物サクラソウ自生地ではじめてみた野生のサクラソウは、野焼き後の黒く焦げた地面から、ちょうど丸くたたまった葉先をわずかにのぞかせたところでした。
野焼きは、自生地に枯れたヨシやオギが積もって、サクラソウのような背丈の小さな植物が芽を出すのを妨げることのないよう、毎年冬の間に実施されているものです。
その日、定期的な観察ができるように、保護区のなかの数個所に、縦1メートル、横1メートルの調査用の枠をつくりました。
それが、今日までにわたる私のサクラソウの研究の始まりでした。
植物生態学の研究では、植物群落のなかに方形の調査枠を設けて、成体や芽生えなどの生存や成長を定期的に調査することが常套手段となっています。
先輩の博士と私も、まずはそのような調査を開始しました。
4月になり、花が咲いたときが、野生のサクラソウの花と私の最初の出逢いでした。
生まれたての春の緑、和風の野生チューリップともいえるアマナの白い花、黄色いノウルシの花、そして、サクラソウのピンクの花がつくる彩りの妙・・・。
それは、かつてはその一帯の河原に広くみられた天然の花園の光景でした。